The English Club の
考え方
第二言語習得研究と脳科学研究の知見から、英語を習得するために必要な3つのことが導き出されます。
- 基礎知識(単語・文法・発音)を習得し、英語を日本語に訳さずに理解できるようにする。
- 多量なインプット(読む・聞く)を確保しつつ、よく使用される表現を使えるようにする。
- 日本語を訳すことをせずに、シンプルで正しい英文をスムーズに作れるようにする。
上記の3つは、主に「第二言語習得研究1」の知見から導き出された結論です。第二言語習得研究では、「自動化モデル」と「インプットモデル」という2つの代表的な理論がありますが、1.と3. は「自動化モデル」、2. は「インプットモデル」の考え方に基づいています。
「自動化モデル」とは、単語・文法・発音の知識を習得し、それらの知識を無意識的・自動的に使えるようにすることを目指すモデルです。一方で「インプットモデル」とは、インプット(読む・聞く)の量を増やすことで自然な言語習得を目指すモデルです。最近の研究では、この2つのモデルを両方取り入れた学習がより効率的かつ効果的だと言われています。
「自動化モデル」の「自動化」とは、知識を自動的に使えるようにすることですが、脳科学研究2では、この現象を「意味記憶」もしくは「エピソード記憶」の「手続き記憶化」と表現します。
1「第二言語習得研究」とは、第二言語(≒外国語)を習得するメカニズムやプロセスの研究、もしくはその研究分野のことです。
2「脳科学」という表現が一般的に使用されていますが、正式には「神経科学」です。ここでは、以降「脳科学」といいます。
第二言語習得研究と脳科学研究は、日本人が英語を習得できない理由も明らかにしてくれます。あなたにも当てはまることがありませんか?
- 英語を日本語に訳して理解することを重視している。
- アウトプットの際、日本語を英語に訳すことに固執している。
- 基礎知識(特に文法と発音)の重要性を無視している。
- インプットの量が圧倒的に不足している。
- 理解することを重視し、使えるようにする意識が欠如している。
- 英語という新しい言語をもう一つ獲得するという意識が欠如している。
1. & 2. 日本語の介入
「自動化」とは、つまり「英語を英語のまま(日本語を介入させずに)、無意識的に理解し、使えるようにすること。」です。「英語脳(英語回路)の獲得」と表現することもできます。英語を使う際、いちいち日本語に訳して理解したり、日本語を英語に訳していたら、スムーズにコミュニケーションできるはずがありません。
瞬間的に日本語を英語に訳すトレーニング法がありますが、「訳す」スピードをいくら速くしたところで、スピーキングの流暢さは向上しません。「訳す」ことから脱却しなければならないのです。それが、「英語脳(英語回路)」を獲得するということです。
「英語脳」は脳科学研究からその存在が確認されています。1997年に科学雑誌「Nature」に発表された論文によると、高校生以降に第二言語として英語を習得した人の脳を調べた結果、母語(日本人の場合は日本語)を使用するときと、英語を使用するときでは、脳の別の領域が活動するという実験結果が出たそうです。また、新潟大学脳研究所教授の中田氏の実験では、日本人が日本語を使っているときと、アメリカ人が英語を使っているときで、それぞれ脳の活動がはっきりと違ったそうです。東京大学大学院神経生理学准教授の池谷氏は、その理由として、「日本語と英語の持つ音韻や文法構造の違い」などが考えられるとしています。日本語脳と英語脳が存在する科学的な証拠です。
3. 基礎知識の重要性
言語の基本要素は、「単語」「文法」「発音」の3つしかありません。単語を覚えなければ何も始まらないことは簡単に理解できると思います。しかし、「文法」と「発音」の重要性を認識していない方が多く見受けられます。
「文法」の重要性を否定する言語学者はいません!子どもは文法を学習しなくても言語(母語)を習得できると反論する方もいるでしょう。しかし、その理由は脳科学の知見で説明できます。子どもの頃の脳は丸暗記が得意なので、「九九」などの意味のない数字の羅列でも丸暗記できます。それと同じように、文法のようなルールも丸暗記できるのです。しかし、大人になると丸暗記の能力が低下します。一方で、年とともに物事をよく理解してその理屈を覚える能力が高くなります。大人は文法を勉強する必要があり、その能力も高いということです。
日本の学校教育は、長年「発音」を無視してきました。神奈川大学外国語学部名誉教授の深澤氏は、「学校教育の『使えない英語』の根本的な要因は、音声学を持たない英語教育」と批判しています。「発音」は「単語」と「文法」と同様に最も重要な言語の基本要素の一つなのです。英語の発音には、「母音と子音」「単語のアクセントの位置」「リズム」「イントネーション」「音声変化」の5つの要素がありますが、英語音声学などの科学的知見を応用し学習すれば、効率的にリスニング力を向上させることができます。
4. インプットの量の不足
米ピッツバーグ大学言語学科教授の白井氏は、「大多数の英語学習者に共通する問題は、インプットの量の不足。理解可能なインプット(comprehensible input)をどれだけ確保できるか、これが英語習得の必要条件。」と指摘しています。空っぽの箱の中からは何も出すことはできません。英語を口から出したければ、まずは頭に英語を入れなければならないということです。多くの英語に触れなければ、理解の幅も広がらないことは言うまでもありません。
なお、関西学院大学教授で心理言語学・応用言語学者である門田氏によると、2006年の中学・高校の一般的な英語の教科書を調べた結果、6年間で触れる単語数のトータルは35,000語程度だったそうです。これは、英語のペーパーバック(紙表紙の安価な小説本)の72〜73ページ分にしかなりません。ちなみに、ベストセラーで映画にもなったダン・ブラウン(Dan Brown)のダ・ビンチ・コード(The Da Vinci Code)のペーパーバックは597ページあります。73ページだと、日本人は6年間にダ・ビンチ・コードを1/8しか読んでいないことになります。6年間英語を勉強しても英語を使えないのは、ある意味当たり前と言うことです。
5. 英語を使う意識
英語を話せるようになるためには、アウトプットのトレーニングが必須です。効率的にスピーキング力を向上させるためには、インプットの量を増やすだけでは不十分なのです。TOEICで高得点を取っても全く話せない人が多いことがその証明になるでしょう。TOEICはインプットの能力のみを測定するテストです。
また、使えるようにするための知識の深さは、理解するための知識のそれとは比べものになりません。正確に使えるようにするためには、より深い知識が必要となります。例えば「suggest」は中学で習う単語ですが、正確に使いこなせる自信がありますか?
ピッツバーグ大学言語学教授の白井氏は、スピーキングのトレーニング方法として、「リハーサルの効果は絶大」と指摘しています。「リハーサル」とは、英語を実際に声に出さずに頭の中で言うタスク(課題)です。つまり、英語で考えることです。このリハーサルは、頭の中で文を組み立てなければならないので、インプットのときよりも文法的な知識が重要になります。
6. 英語という言語の獲得
英語を習得するということは、英語という新しい言語をもう一つ「獲得」するということです。日本語を介入させて英語を使うということは、日本語の回路を使って英語を使うということで、日本語で英語を遠隔操作しているようなものです。これでは、英語を「獲得」したことにはなりません。絶対に英語を流暢に使えるようにはならないのです。
英語を「獲得」するということは、日本語のOSに加えて、英語のOSをもう一つインストールするイメージです。日本語のOS(オペレーティングシステム)で英語というアプリを使用するのではありません。日本語を使うときは日本語のOS(回路)、英語を使うときは英語のOS(回路)を使用することにより、英語も流暢に使えるようになります。
第二言語習得研究と脳科学研究から導き出された、大人が英語を習得するための最も効率的な学習方法は、
- 多量の「インプット」に加え、自らを「アウトプット」する必要にある状況に置くことで頭の中でリハーサルすること。
- 単語・文法・発音の知識を基礎から意識的に学習し、その知識を無意識的に使えるようにしていくことをメインとして、よく使用される表現やフレーズを覚えて使えるようにすること。
- 「理解」し「記憶」したことを無意識的に使えるように「自動化」するプロセスを踏むこと。
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