初心者の「大人」(社会人)の皆さま向けに、英語(英会話)を独学で習得するための学習方法をご紹介したい。
英語(英会話)は独学で習得できる。独学なしでは習得できないと言った方がいいだろう。しかし「勉強の方法がわからない・・・」という初心者の方が多い。このコラムは、そのような方向けに、第二言語習得研究と脳科学(神経科学)研究の知見に基づいた、真に効率的な学習法をわかりやすくご説明していく。
なお、本コラムは、The English Clubが無料で配布している eBook「英語独学完全マニュアル|英語コミュニケーション力を独学で効率的に習得する学習法の全て」の内容を初心者の皆さま向けに、最も重要なところのみを詳しく解説したものだ。初心者の方は、このコラムをご理解して頂いた後にeBookを読んで頂ければ、より理解が深まるだろう。
目次
1. 英語は独学が基本!
「独学」で英語を学習しようとしているあなたは、英語を習得できる可能性が非常に高いといえるだろう。なぜならそこには強い「意志」があるからだ。
英語を効率的に習得したいのであれば、毎日の学習は必須だ。英語(英会話)スクールに通っていても、毎日自分で学習しなければならない。スクールでの学習時間と比べたら、自分で学習している時間の方が圧倒的に多くなる。そして圧倒的に重要になる。つまり、英語は自主学習(独学)が基本なのだ。
あなたのように強い「意志」があれば、毎日学習するために自分自身をコントロールすることはそれほど難しくないはずだ。このコラムで効率的な学習方法を実践して頂ければ、スクールに通う必要もない。
2. 英語の独学には「What」と「How」が重要
「独学」というのは、「他人」に教えてもらうのではなく、「自分」で学習するということだ。その際、「何を(What)どのよう(How)に学習するのか?」が最も重要になる。
独学に必要な英語の教材は書店に行けば溢れんばかりに陳列されている。英語学習アプリも毎日のように新しいものがリリースされている。しかし、「何をどのように学習するのか?」は自分で決める必要がある。それを間違ってしまうと、遠回りになるばかりか、いつまでたってもゴールに辿りつけないということにもなりうる。
このコラムでは、英語を「独学」で「効率的」に習得することを目指す初心者の皆さま向けに、「何をどのように学習するのか?」について、科学的知見を基にできる限りわかりやすく解説していきたい。
なお、このコラムでの「初心者」とは、TOEIC(L/R)で400点未満の方とする。
3. 英語独学の3ステップ|「基礎力強化」「英語脳作り」「実践力強化」
第二言語習得研究の知見から導き出される最も効率的な英語の学習方法は、①基礎力強化、②英語脳作り、③実践力強化 の3つのステップから構成される。まずは概略を説明しよう。
3.1. ステップ① 基礎力強化
言語を構成する基本要素は、「単語」「文法」「発音」の3つしかない。英語を習得したいと思ったら、まずはこの3つの基礎的な知識を習得することから始めなければならない。
英語に限らず、大人になってから新しい言語を習得するというのは、「単語」を覚えて、その並べ方(「文法」)と「発音」の方法を覚え、そして使えるようにすることだ。それ以上でもそれ以下でもない。
ほとんどの方は、単語と文法の重要性は理解できると思う。しかし、特に初心者の方は発音の重要性を理解することは難しいのではないだろうか。なぜなら、日本の学校教育が発音を無視し続けているからである。それが日本の英語教育の最大の問題点の一つと言っていいだろう。発音は単語と文法と同様、英語を使えるようになるためには非常に重要な言語要素の一つなのだ。
3.2. ステップ② 英語脳作り
言語の3つの基本要素である「単語」「文法」「発音」を頭に入れる(覚える)だけでは、英語を流暢に使えるようにはならない。流暢さを向上させるためには、それら3つを組み合わせて無限の文章を無意識的・自動的に、瞬時に作れるようにしなければならない。そのためには英語脳(英語回路)を作る必要がある。
英語脳を作るということは、「英語を英語のまま、英語の語順で理解し、使えるようにすること」だ。英語を使うときは、頭の中から日本語を排除する必要がある。聞いた英語をいちいち日本語に訳してから理解したり、日本語で考えたことをいちいち英語に訳してから発言していたらスムースなコミュニケーションなどできっこない。
また、英語の語順は日本語とは全く異なる。中学・高校の英語の授業では、英文を後ろから日本語に「戻り訳し」ながら理解する方法を学んだが、そんなことをしている限り、英語を自由に使えるようにはならない。英語は、そのままの順番で前から理解でき、そしてその順番で瞬時に作れるようにしなければならない。
ちなみに、英語脳(英語回路)を作るということは、第二言語習得研究では「自動化」といい、脳科学(神経科学)研究では「手続き記憶化」という。
3.3. ステップ③ 実践力強化
英語を話すたびに、最初から英文を頭の中で作ることは現実的とは言えない。よく使用される表現(定型表現)や、自分が好きな表現・フレーズを覚えて、単語を変えたり、別な表現と組み合わせたりできるようになれば英文を作るスピードも速くなり、表現の幅も広がる。流暢さが向上するといことだ。
また、ネイティブにとって自然な表現を使いこなせるようになるためにも、定型表現を覚えることは重要だ。単語と文法は間違っていなくても、ネイティブにとって不自然な英文はいくらでも作れる。簡単な例では、“Happy New Year!” や “Merry Christmas!” とはいうが、“Merry New Year!” とはいわない。単語・文法的には間違っていないが、ただそういう風には言わないのだ。このようなことは覚えていくしかない。
一方で、英会話スクールでは定型表現だけを教えているところが多い。しかし、定型表現をいくら覚えても、自分の言いたいことを自由に表現できるようにはならない。つまり、英語を習得することはできないということだ。定型表現を覚えることは確かに重要だが、あくまで流暢さを向上させるための補足的な学習であるということを理解して頂きたい。
英語学習の基本は、あくまで、言語の3つの基本要素を組み合わせて無限の文章を作れるようになることだ。そのためには頭の中で英文を作る能力を磨き上げる必要がある。そして、自分の言いたいことを簡略化する能力も向上させる必要がある。
我々日本人は、日本語は得意なので日本語では複雑なことも表現できる。しかし、英語は苦手なので複雑なことは表現できない。したがって、英語を使うときは、自分の英語力でも言えるように、自分の言いたいこと自体を簡略化する必要がある。このスキルを身につけない限り、英語のスピーキングの流暢さは向上しないといっていい。
それでは「基礎力強化」「英語脳作り」「実践力強化」の3つのステップを一つ一つ詳細に説明していく。
4. 英語は独学!「基礎力強化」の目標と学習方法
言語を構成する3つの基本要素である「単語」「文法」「発音」を一つ一つ見ていこう。
4.1. 英単語の学習目標
まずは単語を覚えなければ何も始まらない。英語の習得はここからがスタートだ。
4.1.1. まずは最重要語2,000語を覚えよう!
覚えるべき単語数はそれほど多くはない。初心者の方は、まずは最重要語2,000語を目標にして頂きたい。なぜ2,000語なのか?
獨協大学の教育工学准教授の堀江氏は、英語を適切に理解するには最低でも80%以上の単語を知っている必要があると指摘している。一方で、米・英・日の3名の言語学者が、それぞれ最重要語2,000語で80%をカバーできるという研究結果を発表しているのだ。
我々日本人は、中学3年間で1,200語、高校3年間で2,000語の合計3,200語の英単語を「最低でも」学習している。「最低でも」というのは、この数字が学習指導要領で定められている数字だからだ。大学受験を経験されている方であれば、より多くの単語を学習しているはずだ。最重要語2,000語とは、高校2年くらいまでの英単語といっていい。
4.1.2. 覚えるべき単語を覚えよう!
2,000語といっても、どの単語でもいいという訳ではない。「最重要語」の2,000語を覚えることが重要なのだ。
「最重要語2,000語」というのは、単語を最も頻繁に使われる順番で並べた場合の、1番目から2,000番目までの単語のことだ。これらの2,000語で80%をカバーできることは既に説明したが、一方で、2,001番目から8,000番目までの6,000語では、たったの9%しかカバーしない。
「どの単語を覚えたらいいのか?」という問題は、英語学習の効率性を大きく左右する重要な問題だということがご理解できるだろう。英単語教材を選ぶ際は、掲載単語の選定基準に細心の注意を払って頂きたい。
4.1.3. 理解できる単語と使える単語を区別しよう!
最重要語2,000語を「理解できる」ようになったら、それらを自分でも「使える」ようにしながら、「理解できる」単語を徐々に増やしていくことが最も効率的な英単語学習だ。
「理解できる」単語とは、英単語を見たり聞いたりしたときにその意味がわかる英単語で、「使える」単語とは、英語を話したり書いたりするときに頭に浮かんでくる英単語だ。このように、単語を2つに区別しながら学習することは効率性の向上につながる。
あなたも、読めるけど書けない漢字はあるだろう。また、読んだり聞いたりすれば理解できるけど、自分では使わない(使えない)日本語の単語もあるだろう。つまり、理解できる単語を全て使えるようにする必要はないのだ。
自分の言いたいことを自由に表現するには、最重要語2,000語で十分であるということが、神戸大学・大学院准教授石川慎一郎氏の研究で明らかになっている。それ以外の単語は「理解できる」だけで十分なのだ。
なお、英語の単語数についての詳細は、「英語の単語数は2000語で80%!数より質で効率的に語彙力アップ」を参考にして頂きたい。
4.2. 英単語の学習方法
4.2.1. 単語は体全体で覚えよう!
英単語は「目」だけではなく、「耳」・「口」・「手」も使って体全体で学習すると効率的だ。脳科学研究からは、脳をあらゆる方向から刺激してやると記憶に定着しやすいと言われている。加えて、英語の4技能(読む・聞く・書く・話す)を効率的に習得するための基本でもある。
英単語は目で見て理解できるだけではダメだ。見て理解すること(「読む」)に加えて、「聞いて」理解でき、ネイティブが理解できるように発音でき(「話す」)、スペルを間違えないで「書ける」ようにしなければならない。英語の4技能の習得はここから始まるといっていい。
The English Clubでは「自動化トレーニング」という英語トレーニング方法を推奨している。「自動化トレーニング」は、下記のように「目」・「耳」・「口」・「手」を使った22種類のトレーニング法が含まれる。
英単語を覚える際は、これらのトレーニングのうち、下記の8つを組み合わせて、繰り返し行うことで効率的に学習できる。トレーニングの流れと詳しいやり方は、「英単語の覚え方|科学的勉強法で暗記を効率化!自動化トレ8選」を参考にして頂きたい。ここでは最も重要な注意点のみを説明する。
4.2.2. 発音も一緒に覚えよう!
初心者の方が英単語トレーニングを行うときは、意味に加えて、特に発音もしっかりと意識して頂きたい。英語には日本語にはない発音が数多くあるので、日本人の英語は通じないし、聞き取れない。日本語にはない母音と子音を、自分でも無意識的に発音できるように声を出して繰り返し練習して欲しい。自分でも発音できるようになれば聞き取れる。
また、アクセント(ストレス)の位置も重要だ。英単語には必ず強く発音するところ(アクセントの位置)がある。そのアクセントの位置を間違って発音すると理解してもらえない場合が多い。例えば、「ヴァニラ・アイス」のヴァニラ(vanilla)は、日本語発音で「ヴァ」を強く発音すると通じない。筆者の実体験だ。アイスを買うときは「二」を強く発音しよう。
英語の発音についてはあとで詳しく説明する。
4.2.3. 暗記ではなく繰り返そう!
英単語を覚える秘訣は「繰り返し」だ。特に初心者の皆さまが最重要語を覚えるときは、とにかく繰り返し「見て」・「聞いて」・「発音して」・「書く」ことをお勧めする。
単語が覚えられないと嘆いている人は多い。そのような方は単語を一生懸命「暗記」しようとしている場合が多い。一般的に暗記したことは忘れやすい。なぜなら、大人の脳は(丸)暗記が苦手だからだ。子どもの頃(臨界期前)の脳は暗記が得意なので、九九などの意味のない数字のら列を音として丸暗記できるが、大人になってからでは九九は暗記できない。
大人の脳は丸暗記は苦手だが、理解してその理屈を覚えたり、何かと関連付けて覚えることは得意だ。従って、英単語を例文で覚えたり、語源で覚えたりすることもお勧めする。しかし、初心者の皆さまの場合は、多くの最重要語を覚える必要があるので、まずは英単語の日本語の訳語を一つずつ覚えていこう。それには繰り返しが重要なのだ。
お勧めは、英単語と日本語の訳語が録音されている音声を、単語集を見ながら繰り返し聞き、発音することだ。その際、特に暗記しようとしなくていい。意味と発音(特にアクセントの位置)を意識して、とにかく繰り返し聞き、音源をそっくりまねて発音して頂きたい。慣れてきたら単語集を見ずに繰り返す。スペルが覚えられない場合は書く練習も取り入れたい。
4.2.4. 自分が使いそうなフレーズと一緒に覚えると効率的!
最重要語2,000語の日本語の訳語を上記のやり方で一通り(80〜90%)覚えたら、2,001語目からの単語は例文で覚えていくことをお勧めする。
最重要語2,000語程度の単語の知識が入っていない段階では、例文で覚えることは逆に非効率になり得る。例文の中のほとんど全ての単語がわからなければ、何かと何かを関連づけて覚えるという、例文で単語を覚えるメリットが享受しにくくなるからだ。例文を理解することだけで終わってしまう可能性が高くなる。
最重要語2,000語程度を覚えたあとであれば、未知の単語を知っている最重要語と関連づけて覚えられるだけではなく、多くの例文に触れることにより、最重要語の色々な意味や使われ方も理解できるようになる。そして徐々に自分でも使えるようになっていく。
その際、自分が実際に使えそうなフレーズが多く含まれている例文を使用できればより効率的だ。覚えた単語を他のフレーズに使ってみたり、覚えたフレーズの単語を変えてみたりすることができれば、表現の幅をより広げることができ、「話す」・「書く」アウトプット時の流暢さを向上することもできる。
4.3. 英単語のおすすめ教材
初心者の皆さま向けのおすすめ教材をご紹介する。下記の順番で教材をステップアップしていきながら語彙増強して頂きたい。
DataBase1700使える英単語・熟語3rd Edition[桐原書店]¥850+税
中学1年〜高校1年で実際に使用している教科書から最重要語を掲載している。中学英語からおさらいしたい方向け。最重要語ばかりなので、ちょっとでも不安な方はここから始めることをオススメする。DataBaseシリーズ4つのうちの初級者用。
「DataBase1700」の詳しい内容や学習方法については「データベース|1700 3000 4500 5500の内容・使い方・効果を徹底検証!」を参考にして頂きたい。
DUO select[アイシーピー]¥1,140+税
「DUO 3.0」の中から重要単語1000語と熟語600語をピックアップし掲載。英検2級レベルを目標とする方向け。TOEIC/TOEFLの基礎学習用。CDと合わせると4千円以上と高い。内容や使い方についての詳細は、「DUO select|英単語教材としての内容・やり方・効果を徹底検証」を参考にしてほしい。
「DUO select」の詳しい内容や学習方法については「DUO select|英単語教材としての内容・使い方・効果を徹底検証」を参考にして頂きたい。
DUO 3.0[アイシーピー]¥1,200+税
2大英英辞典の基本定義語とほぼ一致しているという見出し語1,572語と熟語997を掲載。TOEIC780点レベル、英検準1級レベルが目標の方向け。CDと合わせると4千円以上と高い。内容や使い方についての詳細は、「DUO 3.0|英単語教材としても内容・やり方・効果を徹底検証」を参考にしてほしい。
「DUO 3.0」の詳しい内容や学習方法については「DUO 3.0|英単語教材としての内容・使い方・効果を徹底検証!」を参考にして頂きたい。
4.4. 英文法の学習目標
大人になってから英語を習得するには文法の学習は必須だ。子どもは文法を学習しなくても言語を習得できると反論する人もいるが、そのような方は「英文法勉強法|基礎から効率的に覚える科学的トレーニング8選!」をお読み頂きたい。
4.4.1. まずは基本文法を一通り理解しよう!
英語は基本をおろそかにすると途中で伸びなくなる。特に文法は、まずは基礎を固めることが重要だ。まずは中学3年間で習った基本文法を体系的におさらいしよう。
The English Clubには、中学英語もままならないにもかかわらず、いきなりTOEICの文法の問題を解くことから始めた方が実際にいらしたが、その方はTOEICで600点以上を取っていたが、be動詞を使った単純な疑問文や否定文すら正しく作れなかったのだ。このような状態では、TOEICの文法問題をいくら解いても、更なる伸びは全く期待できない。
文法は「体系的」に基礎から積み上げて学ぶことが必須だ。例えば、現在完了形を学ぶ前に、疑問文の作り方を学ぶべきである。当たり前のことのようだが、できていない方が少なくない。
基礎から積み上げていくことは重要なのだが、枝葉を見る前に森を見ることも重要だ。初めは細かいことは気にせず、おおまかに理解するようにした方がよい。つまり、文法書の解説を読んでも理解できないところは飛ばしてどんどん前に進もう。一度全体を見渡すと、振り返った時に理解できなかったところが簡単に理解できることも多いからだ。
4.4.2. 高校一年くらいまでの文法を自分でも使えるようにしよう!
単語の学習と同じく、文法の学習も「理解できる文法」と「使える文法」と区別して学習すると効率的だ。文法の場合は、高校一年くらいまでに習うことを自分でも「使える」ようにすることをお勧めする。
我々日本人が英語を使う(話す・書く)場合は、なるべく単純な文法と簡単な単語で、内容が明確な文章を作るように意識したい。その目安が、高校一年くらいまでに習う範囲の文法だ。それらの文法と最重要語2,000語を自分で使えるようになれば、自分の言いたいことを自由に表現できる下地ができたと考えていい。
例えば、高校で習う「仮定法」は読んだり聞いたりした時には「理解できる」ようにしておくべきだが、「使える」ようにならなくても構わない。別の言い方で表現できるからだ。また、TOEICに出てくる文法の全てを自分でも使えるようにする必要なない。英語は習得しなければならないことが多いので、できる限り効率化していきたい。
4.4.3. 理解できる文法を徐々に増やしていこう!
高校一年くらいまでの文法を自分でも使えるようにトレーニングしていきながら、同時並行的に、より高度な文法を理解できるようにしていって頂きたい。
「使える文法」というのは、英語を「話す」ときと「書く」とき(つまり、アウトプットのとき)に必要となる。文法とは、簡単にいうと単語の並べ方だ。アウトプットするとき、自分の伝えたいことを正確に表現するためには、単語を文法通りに並べなければならない。「使える文法」とは、「話す」「書く」能力に直結するのだ。
一方で、「理解できる文法」というのは、英語を「読む」ときと「聞く」とき(つまり、インプットのとき)に必要となる。単語が理解できれば、言いたいことはなんとなく理解できるかもしれない。しかし、相手の伝えたいことを正確に理解するためには文法を理解しなければならない。「理解できる文法」とは、「読む」「聞く」能力に直結するのだ。
英語の4技能(読む・聞く・書く・話す)を効率的に向上させていくために、「使える文法」を固めつつ、「理解できる」文法の幅を広げていって頂きたい。
4.5. 英文法の学習方法
4.5.1. 文法も体全体で覚えよう!
文法は「頭」だけではなく「目」「耳」「口」「手」を使って体全体で学習しよう。文法というと、机の前でカリカリとやる「頭」を使った勉強を想像する方も多いと思う。しかし、使える英語を身につけるためには、それではダメだ。学習する文法項目が含まれた例文を「読み」、「聞き」、「発音」、そして「書く」ことを繰り返そう。
単語の学習とは違い、文法の学習は理解する必要がある。つまり「頭」を使う勉強だ。しかし、文法書を読んで理解しただけでは、聞いたときに理解できるようにはならない。例文を読んで理解できたら、次に「聞いて」理解できるようにしよう。加えて、自分でも発音し、書いてみることで4技能の向上へとつなげよう。
「目」「耳」「口」「手」を使った文法の学習には、上記でご紹介した「自動化トレーニング」をお勧めする。英文法学習用のトレーニングは下記の8つあるが、それらの流れや詳しいやり方については、「英文法勉強法|基礎から効率的に覚える科学的トレーニング8選!」を参考にして頂きたい。ここでは最も重要な注意点のみを説明する。
4.5.2. 発音も意識しよう!
文法学習で例文を聞いたり、声を出して読んだりする際には、発音も気にして頂きたい。特に「リズム」と「イントネーション」だ。
英語は「リズム」が重要だということを聞いたことがあるだろう。「リズム」とは、英文を発音するときの「強弱」と「スピードの差(緩急)」によって起こる。一般的に、強く発音するところはゆっくりと、弱く発音するところは速く発音されるのだ。一方で「イントネーション(抑揚)」とは音の上げ下げのことだ。例えば、疑問文は文の最後を上げて発音することも含まれる。
このリズムとイントネーションは、「プロソディ」と呼ばれることもあり、ネイティブが理解できるように発音するには一番重要な要素だといわれている。難しいことはさておき、気をつけて頂きたいことを単純にいうと、音源とそっくりに発音できるように練習して頂きたいということだ。
4.5.3. 英作文して理解を深めよう!
英文法の理解を深めるためには、学習した文法項目を使って自分で英文を作ってみよう。最初は例文の単語を変えてみて、書いてみるとよいだろう。慣れてきたら、例文とは全く別の英文を、書かずに頭の中だけで作ってみよう。その際にも、発音を意識しながら声を出すことを忘れずに。
多くの問題を解くことも理解を深めることにつながるので、どんどん問題を解いていって頂きたい。ただし、英文を日本語に訳したり、日本語を英文に訳したりする問題には注意して頂きたい。そのような問題は、文法項目の理解を深めるにはよい練習なのだが、それを使えるようにするという目的では決してお勧めできない。英語脳作りを妨げることになり得るからだ。英語脳作りについてはあとで説明する。
穴埋め問題や言い換え問題、間違い探し問題など、日本語を仲介させないで、自分で英文を作ることを目的とした練習問題を数多くこなすことをお勧めする。そうすれば、「読む」「聞く」だけではなく、「話す」「書く」を含めた4技能の向上へとつなげられる。
4.5.4. 自分が使えそうなフレーズと一緒に覚えると効率的!
ここまで、文法を学習する際には、例文を「読み」、「聞き」、「発音し」、「書く」ことで理解を深めることをお勧めしてきた。その際の例文は、自分が使う可能性が高い、または使ってみたい例文を使った方が効率的なことは言うまでもない。人それぞれ英語が必要となる場面は異なるので、自分に合った例文が多く掲載された文法書を選んで学習して頂きたい。
4.6. 英文法のおすすめ教材
初心者の皆さま向けのおすすめ教材をご紹介する。下記の2冊を順番に仕上げていって頂きたい。2冊目は全て英語で書かれているので、最重要語2,000語を一通りおさらいした後でチャレンジすることをお勧めする。
中学英語をもう一度ひとつひとつわかりやすく。[学研]¥2,300+税
中学レベルからもう一度おさらいした方向け。音声も付属。海外旅行で会話を楽しみたいレベルを目指すのであれば、本書で十分だ。ただし、全て、理解できるだけではなく、使えるようにする必要がある。
「中学英語をもう一度ひとつひとつわかりやすく。」の詳しい内容や学習方法については「中学英語をもう一度ひとつひとつわかりやすく|内容・使い方・効果を検証」を参考にして頂きたい。
Essential Grammar in Use 4th Edition[Cambridge University Press]¥4,000程度
Grammar in Useシリーズの初心者向け。全くの初心者の方向けではない。中学で習う英文法を一通りおさらいしてから取り組もう。全て英語で書かれているので、英語に慣れるという意味でのおすすめの文法書。
上記で基礎文法を固めた後は、下記の文法書を仕上げれば文法の学習は終了と考えて良い。
English Grammar in Use Fifth Edition[Cambridge University Press]¥4,000程度
話すための文法書。このシリーズはレベルと言語で7種類あるため、どのレベルの方でも最適なものが選べる。仕事で英語が必要な全ての方におすすめだ。音声はeBookで聴けるが、残念ながらあまり使えない。
なお、「Grammar in Use」シリーズの詳しい内容や学習方法については「Grammar in Use|種類と選び方・内容・使い方・効果を徹底検証」を参考にして頂きたい。
4.7. 英語の発音の学習目標
単語と文法の次は発音だ。これら3つのうち、発音は日本人にとって最重要課題といっていい。
4.7.1. 発音学習の大切さを理解すること!
英語の発音を学習する上で最も大切なことは、英語を習得するには発音を学習する必要があるということを理解することだ。
日本人が中学・高校と6年間も英語を学習してきたのに英語が使えないのは、発音を全く無視してきたからだと主張する言語学者は少なくない。繰り返しになるが、言語の基本要素は「単語」「文法」「発音」の3つしかない。発音は単語と文法と同様、言語を習得する上で最も大切なものの1つであるにもかかわらず、日本の学校教育は発音を無視し続けてきたのだ。
なぜ発音が重要なのか?それは、英語の発音が日本語のそれとは全く異なるからだ。例えば、英語には日本語にはない発音が数多くある。日本人はそれらを正確に発音できないので、ネイティブに通じないということが起こる。そして、もっと大事なことは、発音できない音は聞き取れないということだ。英語を「話す」「聞く」能力を向上させるには、発音を学ぶことが必須だということを是非理解して頂きたい。
4.7.2. 発音の5大要素を理解すること!
英語の発音の要素は下記のように5つある。最終的にはこれら全てを克服する必要があるのだが、まずは理解することから始めた方がよいだろう。
- 母音と子音
- 単語のアクセントの位置
- リズム(強弱)
- 音声変化(リエゾン)
- イントネーション(抑揚)
英語の母音は24、子音も24あると言われている。どちらも日本語より圧倒的に多い。日本人の発音がネイティブに通じない理由の一つだ。日本語にはない母音と子音を克服するには、まずは発音記号を理解することをお勧めする。難しいと思われがちなのだが、ほとんどがアルファベットと同じなので、学習すべきことはそれほど多くない。詳細は「英語の発音記号|日本人が苦手な母音と子音を14のコツで矯正!」を参考にして頂きたい。
単語のアクセントの位置については、単語を覚えるときに一緒に覚えるよう既に指摘した。英語のアクセントの位置は、次に説明する「英語のリズム」の土台となるので、しっかりと覚えていって頂きたい。詳細は上記の発音記号のコラムを参考にして頂きたい。
英語はリズムが大切だ。英語は、強くゆっくり発音されるところと、弱く速く発音されるところが交互にくることによって独特のリズムが発生する。英語はリズムよく発音しないと理解してもらえないのだ。詳細は「英語はリズムが重要!4つの法則を理解して使える英語を獲得する」を参考にして頂きたい。
音声変化(リエゾン)は、日本人が英語を聞き取れない最大の理由だと言われている。音声変化とは、ネイティブが普通のスピードで発音すると、音と音がつながって単語が聞き取りづらくなる現象だ。「連結」「脱落」「同化」の3種類ある。詳細は「英語のリエゾン(リンキング)|3つの種類・詳細ルールと克服法」を参考にして頂きたい。
イントネーション(抑揚)とは、音の上げ下げのことだ。同じ文章でも、イントネーションを変えることによって意味やニュアンスを変えることが頻繁に行われる。日本語でもイントネーションの違いによって意味の違いを表現するが、英語は日本語に比べてより多くのことを表現できると言われている。詳細は「英語のイントネーション(抑揚)|基礎と応用15のルールで発音矯正」を参考にして頂きたい。
4.8. 英語の発音の学習方法
4.8.1. とにかく大きな声を出すこと!
英語の学習の基本はとにかく声を出すことだ。特に発音の学習は声を出さないと何も始まらない。単語の学習でも、文法の学習でも、「口」を使って声に出しながら学習することを勧めてきたが、そのときは必ず発音を気にして頂きたい。
また、自分の実力よりやさしめで、長めの英文を使って発音の「自動化トレーニング」も行って頂きたい。発音の学習に適した自動化トレーニングは以下の通り8種類ある。
発音学習用のトレーニングの流れの詳しいやり方は、「英語の発音|初心者向け科学的見地からの6つのコツと練習方法!」を参考にして頂きたい。ここでは最も重要な注意点のみを説明する。
4.8.2. ネイティブ・スピーカーの発音をまねること!
声を出すときには、最初はネイティブの発音をそっくりまねることだけに集中して頂きたい。まずはネイティブの音源をじっくりと聴いてから、自分でも発音してみる。そして、スピードも意識して頂きたい。ゆっくりに感じるものも、実際に自分で発音してみるとついていけないものだ。スピードについていくためには、発音をなるべく正確にまねる必要がある。
発音は口の動かし方が重要だ。英語を話すときは、まずは日本語のときに比べて口を大きく動かすことを意識して頂きたい。そして、英語には日本語にはない動かし方が多いので、その独特の動かし方をマスターすることだ。特に、唇と舌と顎の動きを意識して、ネイティブとそっくりに発音できるようになるまで繰り返し練習して頂きたい。
4.8.3. リズムとイントネーションから音声変化と母音・子音へ!
文法のところで既に説明したが、初心者はリズムとイントネーションを意識するところから始めよう。母音や子音などの細かい発音はあまり気にせず、強くゆっくり発音するところと、弱く速く発音するところ、そして音の上げ下げを意識しながら、ネイティブとそっくりに発音できるまで繰り返し練習して頂きたい。
リズムとイントネーションをある程度まねられるようになったら、次は音声変化を確認してみる。音声変化はリズムの「弱く速く」発音するところで起こりやすいので、その部分を特に意識してネイティブの発音をまねてみよう。
最後に個々の母音と子音の確認だ。主に日本語にはない発音を、口の動かし方に注意しながら一つ一つ丁寧に確認する。それが終わったら、最初から通して自分で発音してみよう。英語の発音を習得するにはこれを繰り返すことしかない。
4.9. 英語の発音のおすすめ教材
初心者の皆さま向けのおすすめ教材をご紹介する。最初は内容的にやさしいものから初めて、徐々に難易度を上げていって頂きたい。その方が結果的に効率的に習得できる。
英会話・ぜったい音読 入門編[講談社]¥1,300+税
TOEIC470点以下の方を対象とした音読教材の定番だが、初級者のリスニング用にも適している。CD付属。シリーズに「標準編」と「挑戦編」がある。中学・高校の英語のテキストを使用しているため内容的に面白みがないのが欠点。
本書の詳しい内容や使い方は「英会話ぜったい音読|音読教材としての内容・使い方・効果を検証」を参考にして頂きたい。
仕事で使えるMyフレーズ[Z会]¥1,600+税
初級者用の会話教材。中学レベルの単語と文法で、仕事で使える表現を学ぶことが目的の教材。音声ファイルは無料でダウンロード可能。中級者用のリスニング教材にも適している。
Business Venture 1[Oxford University Press]¥4,000程度
会話演習用の教材。CDに収録されている音声がリスニングのトレーニングに適している。単語と文法はやさしいが、スピードはナチュラルなので、中級者以上の方向け。会話の教材としては初級者向け。
5. 英語は独学!「英語脳作り」の目標と学習方法
単語・文法・発音の基礎的な知識を得たら、今度はそれらを無意識的・自動的に使えるようにする必要がある。それが「英語脳作り」であり、「自動化」だ。
5.1. 英語の語順に順応する!
英語は前から、英語の語順通りに理解していけるように意識して頂きたい。中学・高校時代に教わった「戻り訳し」の癖から脱却しない限り、英語を流暢に使えるようにはならない。
我々は中学・高校の英語の授業で、英語を正確な日本語に訳して理解することを教わってきた。正確な日本語に訳すためには、英語を後ろから戻りながら訳すことをやらされてきた。英語の語順は日本語の語順と全く異なるため、日本語に正確に訳そうとすると、戻り訳さざると得ないからだ。
この「戻り訳し」が、日本人が英語が使えない大きな理由の一つといっていい。なぜなら聞いた英語は、この「戻り訳し」ができないからだ。
英語を英語の順番通りに理解できるようにするためには、日本語の「脳回路」とは別の英語の「脳回路」(英語脳)を作る必要がある。ちなみに英語脳が存在することは科学的に証明されている。詳しくは「英語脳の作り方|8つの自動化トレーニングで英語回路を構築する」を参考にして頂きたい。
5.2. 英語を英語のまま理解する!
英語を使うときは、「正確な」日本語に訳して理解することを目標としないで頂きたい。我々の究極の目標は、日本語を正確に訳せるようになることではなく、英語を英語のまま理解し、英語で考えたことをそのまま話すことなのだ。
重要なので繰り返すが、英語を聞くときに、いちいち日本語に訳してから理解したり、英語で話すときに、いちいち日本語から英語に訳していたら、スムースな会話はできない。英語を使うときは、頭の中から日本語を取り去ることが我々の最終的な目標だ。
確かに、初級者の段階では、最初に英文の意味を理解するときは、日本語に訳して理解せざるを得ない。その場合でも、英文を前から順番に訳して理解していって頂きたい。そのように訳すと「正確」な日本語(ちゃんとした日本語)にはならないが、それでいい。目的は訳すことではなく、英文を理解することなのだから。
5.3. 英語の音を体得する!
英語の発音については、意識すればネイティブとそっくりに発音できるところまでは、それほど難しくないだろう。しかし、我々の究極の目標は、意識してないでも発音できるようになることだ。
それにはトレーニングを繰り返すしかない。なぜなら、発音は、主に顎と舌と唇の動かし方だからだ。日本語にはない音を発音するときは、日本語を話す時とは違う動かし方をしなければならない。スポーツをやっている方であれば容易にご理解できると思うが、いつもやっている体の動かし方を変えるのは簡単なことではない。無意識的にできるようになるには繰り返すしかないのだ。
ネイティブとそっくりに発音できなくても、通じればいい。と思う方もいるだろう。その通りだ。我々非ネイティブは、わかりやすく、はっきりした英語で明確にわかりやすく発音できればよい。しかしながら、リスニング力を劇的に向上させたいのであれば、自分でも発音できるようにすることをお勧めする。自分で発音できない音は聞き取れないということを忘れないで頂きたい。
5.4. まとめて英語脳作りトレーニング
今まで説明してきたように、英語脳作りには「英語の語順に順応」「英語を英語のまま理解」「英語の音の体得」の3つを強化する必要があるが、それら3つは同時にトレーニングできる。英語脳作りに適した自動化トレーニングは以下の通り8種類あるので、是非繰り返し行って頂きたい。
トレーニングを行うときには、必ず「意味(内容)」と「発音」を意識して頂きたい。意味(内容)を意識しながら行うと、「英語の語順に順応」と「英語を英語のまま理解」の強化につながる。一方で、発音を意識しながら行うと、「英語の音の体得」の強化につながる。
また、「意味(内容)」を意識するときと、「発音」を意識するときと、2回に分けてトレーニングすることをお勧めする。なぜならば、人間は2つのことを同時に意識することができないからだ。意味と発音の2つを同時に意識しながら音読はできない。
上記の自動化トレーニングのうち、最も重要なのは、音読とシャドーイングだ。それは「英語脳作り」のためのトレーニングに限らない。基礎力強化でも実践力強化でも、それぞれのトレーニングの流れに慣れてきたら、音読とシャドーイングに絞って繰り返しトレーニングを行って頂きたい。
ちなみに、英語脳作りの教材については、発音のところで紹介した3冊使用することをお勧めする。
なお、英語脳作りのトレーニングの組み合わせと流れの詳細は「英語脳の作り方|8つの自動化トレーニングで英語回路を構築する」を参考にして頂きたい。
6. 英語は独学!「実践力強化」の目標と学習方法
スピーキング力の強化には、英文を作る能力の向上と定型表現を覚えることが重要となる。何に注意して、どのように学習すればよいのだろうか。
6.1. 脳内英作文力の強化
6.1.1. 英語で考えて英語で話す!
英語で話すには、頭の中で英文を作る必要がある。その際、日本語を全く介入させずに、英語で考えたことをそのまま英文にすることが我々の最終的な目標だ。
英語を話すときに、頭の中の動きの流れは大きく分けて2つある。1つ目は、頭に浮かんだ言いたいことを一旦日本語にしてから、それを頭の中で訳して英文にして発話するという流れ。2つ目は、頭に浮かんだ言いたいことを、日本語を介入させないで直接英文にして発話するという流れである。
1つ目の流れは、日本語で英語を遠隔操作するイメージに近い。つまり、日本語の回路の中で英語を使うということだ。これでは英語という新しい言語を習得したことにはならない。真に英語を習得するというのは、2つ目の流れのように、全く日本語を介入させないで英語を使えるようにならなければならない。つまり、日本語の回路の他に、独立した英語の回路を作るということなのだ。
その独立した英語回路を作らない限り、流暢に英語を話すことはできない。頭の中で日本語を英語に訳す作業を行っている限り、必ず「…って英語でなんて言うんだっけ?」で詰まって何も言えなくなる。皆さまも覚えがあるかもしれない。
しかし、英語回路を作ることは簡単なことではない。実際には、初心者の頃は1つ目の流れから始まる。それから、1つ目の流れと2つ目の流れが共存する期間がかなりの期間続くことになる。つまり、ある程度上級者になっても、日本語を介入させないで英語が口から出てくるときと、日本語を訳しながら英語を話すときとが入り混ざった状態が長く続くことになる。徐々に徐々に日本語が介入する割合が減っていくイメージだ。
6.1.2. 「訳す」ことからの脱却!
日本語を介入させないで英語を話せるようになるためには、「訳す」ことから脱却する必要がある。初心者の頃は、「訳す」ことから始めなければならないが、適切なトレーニングを行なっていけば、徐々に「訳す」ことから脱却していくことができる。「訳す」ことを続けている限り、日本語が介入する割合を減らすことはできない。
例えば、日本語を瞬間的に英作文する学習方法がある。書店では平積みされているので皆さまの中にも購入された方がいるかもしれない。しかし、この学習方法はお勧めできない。この方法で学習を続けている限り、日本語から英語に訳す癖から脱却できないからだ。
また、NHKラジオで、「反訳トレーニング」と称して英語を日本語に「訳す」トレーニングを推奨している英語教育番組がある。書籍にもなっているので知っている方も多いだろう。これも、上記の学習方法と同様で、訳す癖から抜け出せなくなる。
これらの学習方法は、従来の使えない日本の英語教育の延長上の学習方法と言っていい。日本語の回路の中で英語を使えるようになりたければ良い学習方法かもしれない。しかし、より上を目指すのであれば、あとで紹介する日本語を介入させないトレーニング方法を強くお勧めする。
なお、日本語を瞬間的に英作文する「瞬間英作文」についての詳細は「瞬間英作文の効果|始める前に知るべき科学的見地からの注意点」も参考にして頂きたい。
6.1.3. 「通訳」になろうとするな!
英語で流暢にコミュニケーションを取れるようになることと、スムースに通訳ができるようになることとは、必要となる能力が全く異なる。したがって、トレーニング方法も全く異なる。前者は、英語を使うときには、日本語をできる限り介入させないトレーニングが必要であり、後者は英語と日本語の間をスムースに行き来できるようにするトレーニングが必要となる。
異なる能力が必要だという証拠に、バイリンガルのように英語を流暢に使えるにもかかわらず、通訳は苦手という方が多いことがあげられる。通訳するには、「訳す」という作業を常に頭の中で行う必要があり、その特殊な能力を磨き上げる必要がある。一方で、普通の(通訳ではない)バイリンガルや、それに近い英語力をお持ちの方は、「訳す」という作業は行なっていないので、その能力は低い。
このコラムを読まれている方の中で通訳になりたいという方もいるだろう。しかしながら、英語で流暢にコミュニケーションを取れるようになりたいという方の方が多いのではないだろうか。その場合は、通訳になるための、日本語と英語を行ったり来たりするトレーニングは遠回りになるので気を付けて頂きたい。
6.1.4. 英作文力強化トレーニング
英語でコミュニケーションできるようなるための、頭の中で英語の文章を作るトレーニング方法を紹介する。下記の通り全部で5種類あり、全て日本語を介入させないトレーニングだ。
なお、これらのトレーニングの詳しいやり方や効果については、「英語トレーニング|4技能を独学で習得する科学的自主トレ22選!」を参考にして頂きたい。ここでは概略のみを説明する。
ディクトグロス(Dictogloss)とは、英語をセンテンスごとに聴き、書き取った後、聞き取れなかったところを、前後の関係や文法などから推測し英文を復元する。その後、英文を見て自分が復元したものを比較し分析するトレーニング。英文を復元する作業により、英作文力が強化される。
リプロデューシング(Reproducing)とは、英語をセンテンスごとに聴き、理解した意味を基に英文を口頭で再現(リプロデュース)するトレーニング。聞き取れなかったところは、全体の意味や前後の関係から推測し英文を再現する。結果的に聞いた英文と同じ英文になっても構わない。
リフレージング(Rephrasing)とは、聴いた英文を、だいたい同じ意味になるように別の言い方にするトレーニング。英語を英語のまま理解し、その英文を他の英文に(日本語を介入させないで)言い換えることで英語脳を強化できる。
サマライジング(Summarizing)とは、1パラグラフ(段落)以上ある長めの英文を聴き、自分の言葉で要約(サマライズ)するトレーニング。頭に浮かんだ言いたいことを、日本語を介入させることなく英語にする能力を向上させる。
シミュレーション(Simulation)とは、英語で話す必要がある場合、もしくはその場合を想定(シミュレーション)し、英文を頭の中で作るトレーニング。実際に英語で話す機会があった場合、その後、うまく言えなかったことを、再度頭の中で英文にすることを含まれる。スピーキング力向上のための基本中の基本トレーニング。
6.2. 表現方法単純化
自分の言いたいことを英語で自由に話せるようになるためには、自分の言いたいこと自体を、自分の英語力で言えるまで単純化できるようにする必要がある。
6.2.1. 表現方法を単純化するとは?
最重要語2,000語と高校1年までの文法を使えるようになれれば、自分の言いたいことを表現できると既に説明した。しかし、言いたいことそのものを単純化できるようにならないと、「自由に」「流暢に」言いたいことを表現することは難しい。
例えば、①「この本は私を成長させてくれた。」と英語で言いたいとする。しかし、これをこのまま英文にするには難しい。自分の英語力では無理だと判断したら、別の表現を考えてみる。②「私はこの本で成長した。」が頭に浮かんだが、これでも難しい。次に③「私はこの本から色々学んだ。」が頭に浮かんだ。そしてそれを英文にしたら「I learned many things from this book.」となる。
①が頭に浮かんだとき、多くの方が「”成長させる”ってなんていうのだろう?」と悩むことになる。こういう状態になったら、悩んでも絶対に出てこない。詰まって何も言えなくなる。このような状態になったら、悩むのではなく「自分の英語力で言えるにはどう表現すればいいのだろう。」と切り替える必要があるのだ。つまり、言いたいことを努力して言おうとするのではなく、自分の英語力に合わせて言いたいことを単純化する努力をする必要があるのだ。
結果的に作った英文は、非常に単純な英語だ。自分が最初に言いたかったニュアンスとは多少異なるかもしれない。しかし、詰まって何も言えなくなるより遥かによいだろう。
ちなみに、言いたいことを単純化するのは、言いたいことが頭に浮かんだあと、日本語にする前(言語化する前)、もしくは後になる。初心者は日本語にしてから単純化することになり、上級者になるにつれて、徐々に日本語にする前に単純化することが多くなる。
6.2.2. 表現方法を単純化するトレーニング
表現方法を単純化するトレーニングは、上記でご紹介した「リフレージング(Rephrasing)」をおすすめする。難しい英語表現を、簡単な単語と単純な文法を使ったシンプルな表現に言い換える(リフレーズする)練習だ。言い換えるときに注意して頂きたいことが2つある。
- もともとの英文の意味にこだわらないこと。
- 文法的に間違っているかどうか自分で判断できない文章は作らないこと。
全く同じ意味の英文に言い換えることは難しい場合が多いので、大体同じ意味、もしくはニュアンスが同じ英文でいい。なるべく柔軟に、大胆に、クリエイティブに考えて頂きたい。会話文の一部の英文を言い換える場合は、話しの流れで、「自分だったらこう言う」というものが頭に浮かんだら、全く違う意味の英文でも構わない。
また、自分で文法的に正しいかどうかわからない英文は作らないようにして頂きたい。つまり、超シンプルな英文を目標するということだ。中学英語で大抵のことは表現できる。最重要語2,000語と高校2年までの文法を使えるようになっていれば表現できないことはない。
6.2.3. 表現方法を単純化するときのコツ
表現方法を単純化する1つ目のコツは、主語を変えてみること。例えば、受動態の場合は能動態にしてみる。英語は一般的に受動態より能動態の方が好まれる。シンプルな表現になるからだ。また、主語がモノやコト(無生物主語)の場合は、人を主語にしてみる。人を主語にした方が、表現がシンプルになることが多い。
2つ目のコツは、1文で表現しようと思わないこと。特に長い英文を言い換える場合は、2文、3文に分けて表現することを考えてみる。英文を短くすればするほど、文法的な間違いは少なくなる。
慣れるまでは、英文を目で読んで、書きながら言い換え方を考えた方がよい。慣れてきたら、英文を聴いて、頭の中で考えて口に出してみよう。
6.3. 定型表現の習得
これまで、頭の中で英語の文章を作ることの重要性とそのトレーニング方法を紹介してきたが、最後に定型表現の習得についてご説明する。
6.3.1. 定型表現習得の目的
効率的に英語を習得するには、よく使われる定型表現や言い回しを覚えていくことも重要だ。英語の日常会話は、2分の1から3分の1程度を定型表現が占めるといわれている。ビジネス英語のように特定の集団内で使用される言葉は、それ以上に多いという統計もある。
例えば、会社で英語の電話がかかってきた場合、用件を聞いて担当者に転送するだけであれば、定型表現で100%対応できる。担当者が席を外している場合や、他の電話に出ている場合など、あらゆることを想定しても、20程度の定型表現を覚えておけば十分なのだ。
それなら、基礎から学んで英語の文章を作れるようにならなくても、定型表現だけ覚えればいいのでは?と思う方もいるかもしれない。しかしそれは間違っている。電話対応が定型表現で100%対応できるのは、想定できる状況が限られているからだ。例えば、取引相手との交渉などは想定外のことがよく起こる。そのような場合は定型表現だけで対応することは不可能となる。
定型表現で自分の言いたいことを表現できない場合は、単語と文法を組み合わせて英文を作らなければならない。その場合でも、毎回ゼロから英文を作ることは非効率的であり非現実的だ。知っている定型表現や言い回し、フレーズを使いつつ、単語を変えたり、表現を組み合わせたりしながら自分の言いたいことを表現していくのだ。
定型表現やフレーズの単語を変えたり、組み合わせたりするには基礎力(単語・文法・発音)が不可欠になる。つまり、英語を流暢に使えるようになるためには、基礎力を固めて自分で英語の文章を作れるようになることと、よく使われる定型表現・言い回し・フレーズを覚えていくという2つのことが必要なのだ。
6.3.2. 定型表現習得の目標
定型表現を覚える際に最も重要なことは、自分が使う可能性が高い表現・フレーズ・言い回しを覚えることだ。当たり前のことなのだが、それができていない方が多い。
例えば、ビジネスで必要だから英語を学習しているのにもかかわらず、ビジネスとは全く関係ない題材の映画やドラマで英語を学習している方がその典型だ。同じことを言う場合でも、アクション映画や学園ものの映画での表現と、ビジネスでの表現は全く異なることも多い。効率的に英語を学習したいのであれば、このようなことは避けたい。
定型表現を覚えるときは、一般的な、どのような場面でもよく使われる定型表現と、自分が英語を使う状況でよく使われる定型表現を覚えていこう。
6.3.3. 定型表現習得のためのトレーニング方法
定型表現を覚えるにはシャドーイングが効果的だ。シャドーイング単独でも効果はあるが、他のトレーニングと組み合わせて行なうとより効果が高くなる。下記のように全部で8種類を組み合わせて行なうことをおすすめする。トレーニングの流れや詳しいやり方については「英語スピーキング|話せない方必読!科学的練習法と5つの注意点」の「トップダウン学習」のところを参考にして頂きたい。
なお、上記の自動化トレーニングを行う際は、必ずその目的を意識しながら行なって頂きたい。ただ漫然と流れに沿ってトレーニングを行なうより、なぜこのトレーニングをやるのか?を考えながら行った方が圧倒的に効果が高くなる。
例えば、シャドーイングは、単語や文法学習、英語脳作りのところでもおすすめしたトレーニング方法だが、意識をどこに向けるかによって効果は変わってくる。定型表現を覚えることが目的であれば、そこに意識を集中する。英語脳作りが目的であれば、そこに意識を集中して行なって頂きたい。
7. 英語は独学!まとめ
英語を独学で習得する方法を、「基礎力強化」「英語脳作り」「実践力強化」の3つのステップに分けてご説明してきた。初心者の方にも理解してもらえるよう説明してきたつもりだが、理解できただろうか。
ここでご紹介した英語の学習法は、第二言語習得研究と脳科学(神経科学)研究の知見をベースとした最も効率的な学習法であると自負している。このコラムでは、読みやすくするために科学的な知見はご紹介しなかったが、英語習得法に関する最新の知見を知りたい方は、無料で配布しているeBook「英語独学完全マニュアル|英語コミュニケーション力を独学で効率的に習得する学習法の全て」を是非お読み頂きたい。
このコラムでご紹介したことをまとめると以下になる。
- 英語を効率的に習得したいのであれば毎日の自主学習は必須だ。つまり、英語は独学が基本なのだ。
- 独学の際、「何をどのように学習するのか?」が最も重要になる。そしてそれは自分で決めなければならない。
- 科学的な知見から導き出される最も効率的な英語の学習方法は、①「基礎力強化」、②「英語脳作り」、③「実践力強化」 の3つのステップから構成される。
- 「基礎力強化」は、言語を構成する基本要素である「単語」「文法」「発音」の3つの基礎的な知識を習得することから始まる。
- 「英語脳作り」とは、3つの基礎的な知識を無意識的に使えるようにすることだ。そして、英語を英語のまま、英語の語順で理解し、使えるようにすることだ。
- 「実践力強化」とは、流暢さを向上させるために、英文を作る能力、表現をシンプルにする能力、そして定型表現を使える能力を向上させることだ。
- 3つのステップそれぞれにおいて効率的に学習を進めるために、22種類の「自動化トレーニング」を皆さまの学習に取り入れて頂きたい。トレーニングの際は、目的を意識すると効果が変わってくる。
『英語独学完全マニュアル』
独学で効率的に習得する科学的学習法の全て(全79ページ)
英語は独学が基本です。しかし、「自分の学習方法が正しいかどうか…」不安に思っていませんか?本書は、英語の学習方法についてお悩みの皆さまに、第二言語習得研究と脳科学(神経科学)研究の知見に基づいた真に効率的な英語学習法をご紹介する解説書です。
無料eBookの主な内容
- 単語・文法・発音の効率的な基礎力強化方法
- インプット(読む・聞く)能力向上のための英語脳作りトレーニング法
- アウトプット(話す・書く)能力向上のためのリハーサル・トレーニング法
- 学習計画の立て方と効率性を上げるための学習習慣
そろそろ本気で英語を習得したいとお考えの方におすすめです。また、「英会話スクールに通っているけど思うように上達しない…」「TOEICで高得点を取ったけど話せない…」などでお悩みの皆さまも是非ご一読ください。